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気ままにでんきこうさく

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アクティブP-K帰還増幅回路

アクティブP-K帰還回路(1)

下図は、12AU7ヘッドホンアンプの基本回路です。

アクティブP-K帰還増幅回路

「アクティブP-K帰還」というのは私が勝手に言っているだけなのですが…。^^;

簡単に説明すれば、プレートの電圧と入力電圧を比較して、誤差電圧をカソードに注入する方式です。

元もとのコンセプトは、真空管増幅器において歪やf特が減衰する分のみをオペアンプが補正するというもので、全体の増幅度は真空管の増幅度と同じというものでした。

つまり、歪が発生していればその歪の分だけを、また高域と低域でf特が伸びていなければそれを補正する分だけを真空管に働きかけるという単純なものでした。

ところが全体の増幅度を真空管の増幅度と一致させるためには、オペアンプのオープン利得をかなり上回るような超大量の負帰還が必要となり、動作が不安定になることが分かりました。(だって、補正する必要がない周波数では、オペアンプの出力は「0」でないといけないわけですからね)

さて、ヘッドホンアンプと考えるとたった一球では感度が不足ですので、どこかで増幅度を稼がないといけません。

そのため、帰還量を減らすことによりヘッドホンアンプとして必要な増幅度も確保することにしました。

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アクティブP-K帰還回路(2)

下図は前回示した回路をSIMetrixでシミュレーションした周波数特性のグラフです。

周波数特性

緑線がグリッドに入力される電圧で0.1Vとなっています。

黄土色の線は、カソードに接続されるコンデンサC2をオペアンプではなく、GNDに接続した場合のプレート電圧です。
つまり通常のカソード接地増幅器というわけです。
低域は200Hzぐらいから落ち始めています。(出力トランスのインダクタンスは15Hに設定)

青線は、C2をオペアンプに接続した場合のプレート電圧です。GNDの時よりも13dB程度ゲインが上昇しています。また、f特は10Hz程度まで伸びています。

その時のオペアンプ出力が赤線で、400Hzあたりから下の周波数でゲインが上昇しています。

あくまでもプレートでの特性なので、実際には出力トランスを介すると少々特性は悪化します。

以前測定した結果はこちらです。

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アクティブP-K帰還回路(3)

この回路にもいくつか弱点と言うか気を付けるべき点があります。

一つ目はオペアンプがカソードをドライブしているために、カソード抵抗が小さい回路の場合は本方式を適用しにくいということです。

今回の場合カソード抵抗が1.1Kオームなので4558などが使用できていますが、電力増幅管ですと数十~数百オームの抵抗値を取ることが多いので、使用するオペアンプの選択が非常に難しくなります。

というわけで、本方式が適用できるのはヘッドホンアンプぐらいではないかと思うのです。
(もっともカソードのドライブをオペアンプで行わずに強力な差動アンプでドライブすれば、電力増幅管でもOKかもしれませんが。。)

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アクティブP-K帰還回路(4)

二つ目に注意する点として、+B電源のリップルがダイレクトに出力されるので、できる限りリップルは小さくする必要があります。

本方式では、プレートの出力インピーダンスが見かけ上とても低くなりますので、電源のリップル電圧がそのまま出力トランスの1次側に印加されます。

比較のため一般的な電力増幅回路ですと、出力トランスの1次側に印加されるリップルは、電源のリップルのおよそ半分程度になります。(出力トランスの1次側インピーダンスと出力間の出力インピーダンスが等しい場合)

また、出力トランスの2次側からフィードバックを掛けているアンプなどでは、リップルを出力段から発生するノイズとして扱うので、NFB分を掛ければ掛けた分だけリップルが小さくなります。(例えばNFBが10dBであれば、リップルも-10dBになります)

ということで、電源回路のリップルはできるだけ小さくする必要があります。

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アクティブP-K帰還回路(5)

全体の利得は、R1とR3の比で決まります。(回路図)

この回路図の場合ですと47倍(=470Kオーム/10Kオーム、約33.4dB)となります。

真空管とオペアンプの合成利得が設定した値になるように、オペアンプが真空管をアシストします。
オペアンプの利得は3.2倍(約10.1dB)で、真空管の利得は14.7倍(=47/3.2、約23.3dB)となります。(12AU7としては妥当な値)

特性の説明

低い周波数では、通常は出力トランスの特性により利得が下がりますが、そのような周波数でも、全体の利得が47倍になるようにオペアンプ側が利得を稼ぎます。

利得の上限は、R1とR4で決まります。

この回路では47倍(=470Kオーム/10Kオーム、約33.4dB)となります。

周波数の低下に伴いオペアンプ側の利得も上昇し、上昇しきったところで補正はいっぱいいっぱいとなり、レスポンスは低下していきます。

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アクティブP-K帰還回路(6)

なんだか良さそうな方式のようにも見えますが、誤解があるといけないので書いておきます。

まず、出力管のインピーダンスが見掛け上下がりますが、本当に下がるわけではないので負荷が重いと歪みます。(これは通常のNFBを使ったアンプでも同じ)

二番目に、プレートでの周波数特性は低域まで伸びるようになりますが、出力トランスのインダクタンスが上がったりするわけではないので、トランスが飽和するような大きさの出力ではレスポンスが下がり、波形は歪みます。(これは通常のアンプでも同じ)

三番目に、低域では出力トランス起因の出力管の利得低下があるので、オペアンプの出力が上がります。
そのため低域の入力電圧が大きいとオペアンプの出力でクリップしますので、むやみにオペアンプ部の利得上限(R1とR4で決定)を上げない方がいいです。

例えば今回の例ですと、オペアンプの電源が±15Vの場合、オペアンプの無歪出力電圧は約4.6Vrmsとなるので、約5Hz以下では98mVrms以上の入力が入るとオペアンプ段でクリップしてしまいます。

万能ではないのでご注意ください。^^;

(終わり)




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